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按田餃子の成長と「ダメ皮」の行く末 - 朝日新聞社

東京・代々木上原と、二子玉川で大人気の餃子(ギョーザ)店、「按田(あんだ)餃子」の店主、按田優子さんの連載「按田さんのごはん」。2018年、著書『たすかる料理』のインタビューで語っていただいた、どこまでも自由な按田さんワールドを、さらにどっぷり、写真と文章で味わえる貴重な機会。第10回は、按田餃子で出る、失敗した皮=ダメ皮のお話です。“失敗”からこんなにいろいろなものが生まれるなんて! そして生まれたあるものが、そのままお店の人たちにかわいがられ、育ち続けているなんて……!

    ◇

按田餃子にはダメ皮と呼ばれるものがあって、お店の成長はダメ皮の行く末とともにあると言っても過言ではないほどになってきたので、このへんで按田餃子の内側をちょっと紹介してみたいと思います。

ダメ皮とは、餃子を包むときに出る破れた皮のことで、どうしてもこの包み損じの皮が毎日出てきてしまいます。お店を始めたばかりの頃は包む餃子の量も少なかったので、ちぎって汁物などにぺらっと入れて食べればそれで事なきをえたのですが、毎日毎日たくさんの餃子を包むようになってから食べるのが追い付かなくなってしまい、かといって捨てるなんてもってのほか!

按田餃子の成長と「ダメ皮」の行く末

ある日のまかない。ダメ皮定食

はじめに、ダメ皮を救ったのは52歳の男性アルバイトさん

でも、こういうときにはやはり年長のスタッフの人は、絶対に食べ物を粗末にしないから若者のお手本になります。こんなときに、いろいろな世代の人がいる職場はいいですね!!

はじめに、ダメ皮を救ったのは52歳の男性アルバイトさん。冷蔵庫の隅っこに追いやられた、餡(あん)もくっついていてお互いもくっついてしまっているかわいそうな皮をこともあろうか、もう一度こねなおしてまた餃子を作って食べていたのです。

按田餃子の成長と「ダメ皮」の行く末

52歳のおじさん、お皿に練り直したダメ皮を乗せています

それを見てハッとした42歳のおばさん(わたしのことです)、それまではせいぜい汁物にぺらっと入れるか、細切りにして麺のようにして食べていたところに練り直しという業を見て、それ、練り直すなら餃子というか、パンにもできるよね! 来世はパンにしてあげよう!(餃子は男の子でパンは女の子、みたいなイメージです。どうせ練り直すからかわいくお化粧してあげる!)と思い立ち、練り直すときに水とイーストとちょっと砂糖を入れて発酵させてみたのでした。

按田餃子の成長と「ダメ皮」の行く末

ダメ皮カンパーニュはバヌトンなど必要なし! 道具なんて揃えだしたら負けだー!

パンに感動した60歳ベテランおばさんのハートに火がついた

それに感動した60歳のベテランおばさん、「私もパン作りに挑戦したい!」とハートに火がついたご様子。そうなってくると私としても、きちんと配合を割り出して説明しないといけないぞ、と思いまして、まずは皮を分解しました。

こんな感じです。

按田餃子の成長と「ダメ皮」の行く末

ダメ皮の配合を分解

そして、さらにこれをパンの配合と照合して、足りない分を加えていきます。

こんな感じです。

按田餃子の成長と「ダメ皮」の行く末

パンの配合

これにレーズンを加えたり、甘くしたり、スパイスを加えたり(トップ写真もスタッフ作の“ダメ皮パン”その1
)。
こんなに楽しいことができるならと思い、少しずつ冷凍庫に貯めていろいろとやってみることにしました。

皮の配合を分解して、そこからビスコッティにしたり、グリッシーニにしたり。
もう商品にならないものから、こんなにもいろいろなものに変身していくなんて、やっぱり小麦粉を使った食べ物は面白いな~と思います。

按田餃子の成長と「ダメ皮」の行く末

スタッフ作。グリッシーニ

それを食べたママさんスタッフ、お菓子やパンにダメ皮を使ってみる

それを食べたお料理好きのママさんスタッフ、いつも家で焼くお菓子やパンにダメ皮を使ってみることに。この方は、お弁当にご飯におやつまで毎日欠かさず作る本当にお料理の好きな人。お店にも作ったお菓子を度々持ってきてくれます。上京したての20代のスタッフには、ついついおかずを持たせてしまう(←気持ちを抑えきれず)ところが、なんともじわじわくる。すごく気持ちわかるけど、本当にやっちゃう“憧れのあの人”がいたんだ!と感動しました。

按田餃子の成長と「ダメ皮」の行く末

『男前ぼうろとシンデレラビスコッティ』にも書いたとおり(102ページ)、私はクッキーおばさんになるのが夢でした。
クッキーおばさんとは、”毎日家で何かしら焼いている。誰かが訪ねてくると、いつもタイミング良くアップルパイやらオートミールクッキーが焼き上がる。玄関先で「あら! 今ちょうど焼けたわよ! お上がんなさいな!」と誰にでも声をかける町の名物おばさんです。
……という私の中の架空の人物なのですが、まさかこの憧れの人が按田餃子にいたなんて……すごく感動しています!!!! しかも、私は今、ペルーにいるのですが、出発前にうちのクッキーおばさんが「ジャングルに行くのにお腹が空いたらつらかろう(多分こういう気持ちです)」と、おいしい焼き立てクッキーをたくさん(たぶん、ひもじい思いをしないで済むと思った予想枚数)持たせてくれました。愛情がさく裂しています!!

料理はしばしば、自分の気持ちの代弁者だと思います。例えば、気持ちを込めて丁寧に料理をしたい、食材を無駄なく生かし切りたい、という気持ちを、相手を思いやる気持ちに託していたり、はたまた自分も大切に扱ってほしいということだったりすると思うのです。こんなふうにダメ皮が代弁者となり、リレーが繰り広げられるとは思いもよりませんでした。

ドライイースト問題……そうだ、ダメ皮酵母を作ればいいのだ!

自分のまなざしに潜むアナロジー(類推)って、見えてしまうととても気恥ずかしい感じがありますが、それをうまいこと按田餃子ならではの動きにできないかと考えていたら、とうとう良い作戦を思いつきました。

以前からダメ皮が出る度にドライイーストを買うことに、「なんでそんなもの(ダメ皮には失礼ですが)のために、わざわざ買い物に行かないといけないんだ?」という違和感があったのですが、ならば、生地にしないでダメ皮自体を酵母の元種にすれば、でてきたダメ皮をそこに入れるだけという循環ができる。そうだ、ダメ皮酵母を作ればいいのだ! それなら、もっといろいろな人が何か作れる。という考えに至ったのです。

按田餃子の成長と「ダメ皮」の行く末

ダメ皮酵母。ここまでくればもう私の役目も終わり。お店で世話してもらいましょう

いろいろな人が集まって働く職場だから、いろいろな思い、やり方が交錯します。受け取り方も十人十色。だから、ものすごく根源的な衝動だけを共有する、ということで場をつくるのが良い気がしています。

そして、毎日みんなが世話をするように

そして、そこに気持ちを貯めていくというのも面白い。「お菓子箱」と書いた空の箱を置いておくと、お菓子が集まってきます。その原理!?を利用して、

「これはダメ皮酵母です。みんながかまってくれないと元気がなくなってしまいます。毎日お肉の付いていないダメ皮を食べさせてあげてください。そして、皮をあげるときには話しかけてあげてください」

と書いてみたところ、ダメ皮酵母で何かしてみたい!と思ったスタッフが増えて、毎日みんなが世話をするようになりました。そして、みんながダメ珍菓子を作るようになりました。

この、なにかよくわからないものをみんなで守る、とにかく声をかける、とにかく生かす。これってつまり挨拶(あいさつ)をしあって保つ人間関係と同じですよね!?

今日も按田餃子のお菓子箱には新しいお菓子が補充されています。

>>按田餃子の皆さんが作ったダメ皮お菓子の写真はこちら

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  • PROFILE

    按田優子

    保存食研究家。菓子・パンの製造、乾物料理店でのメニュー開発などを経て2011年独立。食品加工専門家として、JICAのプロジェクトに参加し、ペルーのアマゾンを訪れること6回。2012年、写真家の鈴木陽介とともに「按田餃子」をオープン。
    著書に『食べつなぐレシピ』(家の光協会 )、『たすかる料理』(リトルモア)、『男前ぼうろとシンデレラビスコッティ』(農文協)、『冷蔵庫いらずのレシピ』(ワニブックス)。雑誌での執筆やレシピ提供など多数。

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