感謝祭を控えて、ホワイトハウスで七面鳥に恩赦を与えたばかりのトランプ米大統領が25日、マイケル・フリン元大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に恩赦を与えた。歴代大統領が退任前に恩赦を与えるのは恒例だが、トランプ氏の場合、その対象が2016年の米大統領選にロシアが介入した「ロシア疑惑」に関連した側近など、政治的な思惑が強く働いている。米メディアは今後、トランプ氏が同様の恩赦を乱発すると予想。批判が強まるのは必至だ。(ワシントン・岩田仲弘)
◆日米首脳会談直後に辞任したフリン氏
「フリン中将とそのすてきな家族のみなさん、おめでとう。きっと素晴らしい感謝祭となるでしょう」。トランプ氏は25日、ツイッターで恩赦を発表した。
フリン氏は元陸軍の中将で、国防総省の情報機関である国防情報局の局長を務めた。16年大統領選でトランプ陣営の安全保障政策顧問を務め、同年10月に来日した際は、当時官房長官だった菅義偉首相や与党幹部らと会談している。
安保担当の大統領補佐官に就任後は、日本政府もパイプ役として期待したが、就任後わずか約3週間で辞任に追い込まれた。当時の安倍晋三首相が訪米して初の日米首脳会談を行った直後のタイミングだった。
就任前にオバマ前政権の対ロ制裁について当時の駐米ロシア大使と電話で協議し、ペンス副大統領にその事実を隠していたことが発覚したほか、ロシアから脅迫メールを受けた疑惑も明らかになったからだ。その後、ロシア疑惑の捜査で連邦捜査局(FBI)に虚偽証言した罪などに問われていた。
◆訴追された6人 次の恩赦は誰?
フリン氏の恩赦には、ロシア疑惑は、モラー特別検察官らによる「でっち上げ」「魔女狩り」であり、退任前に自分の身を無理やり「潔白」にしておきたいというトランプ氏の思惑が浮かび上がる。
すでに7月には、同じロシア疑惑で議会に虚偽発言したなどとして禁錮3年4月の実刑が確定していた長年の盟友ロジャー・ストーン氏の刑を免除し、共和党内からも「前例のない歴史的な腐敗」(ロムニー上院議員)と批判を浴びていた。
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は、今後さらにこの疑惑の関連でトランプ陣営の外交顧問だったジョージ・パパドプロス氏や選対副本部長だったリック・ゲイツ氏らも対象になるとの見通しを示している。仮に2人が恩赦された場合、モラー特別検察官により訴追された陣営関係者6人中4人が刑の免除や恩赦が与えられることになる。
◆大統領が自ら恩赦は可能か
さらに同紙は「自らの家族や自分自身に対する恩赦にまで踏み切ってしまうのではないかという臆測が公然と語られている」とも指摘。恩赦は、今後予期される罪についても適用可能とされる。トランプ氏を巡っては、大統領の地位を利用して、家族が経営するホテル事業などに利益誘導したり、所得税を免れていた疑惑が次々と報道で明らかになっている。
ただ大統領が自らを恩赦できるかどうかについては法律専門家の間でも意見が定まっていない。
◆数は歴代大統領よりも少ない
米司法省によると、トランプ氏はこれまでフリン氏を除き計28人に恩赦を与え、16人の罪を減刑してきた。これは歴代大統領と恩赦や減刑の数を比べると、トランプ氏の場合、むしろ少ない。
米調査機関ピュー・リサーチ・センターが24日に発表した調査結果によれば、恩赦と減刑を合わせた44人(23日段階の数)は、少なくともマッキンリー氏(1897~1901年在任)以来、最も少ない。1期で終わったフォード氏は409人、カーター氏は566人、ブッシュ(父)氏は77人だった。オバマ氏は1期目こそ、今のトランプ氏よりも少なかったが、2期8年間で1927人に上った。
トランプ政権の場合、請願審査も厳しいようだ。これまで1万件以上の請願があったが、認めたのは44件。その割合は0・5%で、マッキンリー氏以来、一番厳しい。オバマ氏の場合、請願は3万6500件余りで認めた割合は5%だ。
◆100年前の女性運動家にも恩赦を与えたが…
数が少ないだけに、その「政治利用」が目立つ。ピューの調査も「トランプ氏の恩赦は、その多くが大統領と個人的、政治的つながりがあり、恩赦に至る正式なプロセスをしばしば避けるため、物議を醸している」と指摘している。
トランプ氏の恩赦の中には、19世紀末に女性が選挙で投票できないことに抗議し、あえて大統領選で投票したという容疑で逮捕、罰金を科された公民権運動家スーザン・アンソニー(1820~1906年)も含まれる。
恩赦を与えたのは8月18日、憲法修正で女性参政権が認められた100年の節目だった。大統領選を前に女性蔑視批判を避ける狙いがあったとみられ、得意満面だったが、アンソニーの地元ニューヨーク州の女性副知事などから「アンソニーは逮捕を誇りにしていた」と撤回を求められ、もくろみは外れた。
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