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兵庫ブルーサンダーズ、初勝利の裏にあった橋本大祐監督(元阪神タイガース)の愛の鞭(土井麻由実) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース

■初勝利に安堵した橋本大祐監督

初めての勝利監督インタビュー
初めての勝利監督インタビュー

 「正直、ホッとしたほうが強い。嬉しいっていう感情よりは、なんかホッとした」。

 公式戦で今季初勝利を挙げた橋本大祐監督兵庫ブルーサンダーズ)は、安堵の笑みを漏らした。

 「開幕前に考えていたより、ちょっと思ったより勝てない時期が長くて…うーん…初勝利までが長かったなというのが率直な感想かな」。

 8月12日。開幕から9試合目、2か月目にしての初勝利だった。

投打分かれての反省会
投打分かれての反省会

 オープン戦は順調だった。投手陣が揃い、得点力も高く、3勝2敗2分と手応えもつかんでいた。

 ところが新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、リーグ全体が活動休止することになった。選手は各自、できる範囲での自主練習をするしかない。今年就任したばかりの新監督としても、もどかしい思いでいた。

 ようやく開幕できたのが6月13日。自軍の投手力には自信があったので、善戦を見込んでいた。ところが、思ったように点が取れない。投打が噛み合わない。勝つことの難しさを痛感することとなった。

全体のアップ
全体のアップ

 また、7月上旬には対戦相手から陽性者が出たことで、濃厚接触者とは認定されなかったものの、感染拡大防止の観点から活動を自粛した。またもや選手たちはまともな練習ができなくなった。なによりキャッチボールができないことが痛かった。

 再びチームの活動が再開したのが7月24日。翌25日には試合が入っており、そこで6敗目を喫した。

ナインを出迎える
ナインを出迎える
橋本監督の右腕、木村豪コーチ
橋本監督の右腕、木村豪コーチ

 そんな中にあって、橋本監督はいつも穏やかだった。敗戦後も決して声を荒らげたりすることはなく、冷静に選手に接していた。常にフラットな状態でメディア対応も行っていた。

 開幕から初勝利までのこの2か月間、相当苦しかったのではないだろうか。

 「いや、苦しくはなかった。けっこう試合日の間が空くから。毎日負けてたらしんどいかもしれないけど、間があるからか、意外と練習のときも重い雰囲気はなかった」。

 そう振り返る。たしかにNPBのように毎日試合があるわけではない。1週間に1試合か2試合。その間の練習日に切り替えはできていたようだ。

 とははいえ、勝負師である。負けることは大嫌いだ。

 「あんまり出してないかもしれないけど僕、めっちゃ負けず嫌いで、負けてんのにヘラヘラしてるのはめちゃくちゃ腹が立つ」。

 心の中は悔しい思いでいっぱいだった。

■二度の“雷級”の苦言

勝利監督インタビュー
勝利監督インタビュー

 そんな橋本監督が“雷”を落としたことが、今季二度ある。

 いや、正確には“雷”というような激しいものではない。「諭した」という穏やかな表現がふさわしいか。

 だが、激しく叱責されるより、淡々と説かれたほうが選手の胸には響いたことだろう。内容はきっと“雷級”の威力があったに違いない。

メンバー交換
メンバー交換

 一度目は自粛明けの試合から2日後の練習日だった。

 7月25日のこの試合は、5点先制したものの6点返されて惜敗した。だが内容的には、負けたとはいえ限りなく勝利に近づいた試合で、選手たちにもこれまでとは違う手応えがあったようだった。

ベンチから戦況を見つめる首脳陣
ベンチから戦況を見つめる首脳陣

 ところが休日をはさんだ2日後の練習で、橋本監督はガッカリした。

 「なんか、ちんたらしてるように見えて…。とくにシートノックが全然だった。ボール回しをしているときにパーンって適当に放っていた。ちょっと待てよ、と」。

 雑なプレー、気のない練習が散見され、たまりかねた橋本監督はキャプテンの仲瀬貴啓選手、副キャプテンの蔡鉦宇選手小山一樹選手をベンチに呼んだ。練習の最中である。そしてこう告げた。

 「もうお前ら、辞めたほうがいいんじゃない?」と―。

 これには3選手もドキッとしたことだろう。

監督といえど“用具係”もこなす
監督といえど“用具係”もこなす

 「練習でそんなボール回ししてて勝てるわけないやん」。

 誰だって負けることは悔しい。負けたくはない。勝ちたい。もちろん勝負は相手があることだから、敗戦を責めているのではない。ただ、橋本監督の目には、負けた悔しさが練習に全然表れていないのが歯がゆかった。

 「『別に勝ち負けはいいよ』って言って。それより『うまくなろう』っていう感じもなくて、なんのためにここに来て、なんのために今、練習をやってんのか、と」。

試合前の整列
試合前の整列

 独立リーガーは大半がNPBを目指している。戦うからにはチームの勝利を求めることはもちろんだが、それ以上に己の技術を磨き、鍛錬を積むことが大切ではないのか。

 そのためのバックアップをしようとしている橋本監督にとって、目の前の選手たちの姿はそれに値するとは感じられなかった。

試合後のミーティング
試合後のミーティング

 「1週間休んでてもあれくらいの試合ができるんなら、練習もやらんかったらいいねん。試合だけしたいんなら、練習は止めて試合だけやればいいねん」。

 試合だけがしたいというのでは草野球と同じである。橋本監督は選手たちに独立リーグを選んだ意義を今一度、問いただした。

 「お前らはNPBを目指してるんやろ。そのために練習してるんやろ。それで、この練習か。どこを目指してるねん、お前ら。ここになんのために来て、練習してるねん、これがNPBを目指す選手の練習か」。

 神妙に聞いていた3人にとって、この言葉は相当重く、ズシリと響いたことだろう。

 「そのあたりから蔡や小山が声を出して引っ張るようになった。それまでは仲瀬が声を出して引っ張ろうとしていたけど、やや空回りしてる状態があったんで」。

 橋本監督はこの3人を中心にチームをまとめ、同じ方向を向いてやっていきたかった。

■二度目は北海道で

国旗掲揚に注目
国旗掲揚に注目

 そこから少しチーム状態が上向いたのか。8月5日の試合では3-7と敗れはしたが、やや好転してきたように見えた。

 「まさか北海道に行くまでに1勝もできんとは思わなかった…」。

 そう言い残して橋本監督は、チームとともに北の大地に発った。発足したばかりの北海道ベースボールリーグの招待で、8月8日にHBL選抜チームと、同9日には美唄ブラックダイヤモンズとの2連戦が組まれているのだ。

 2戦目には1試合限定でチームに復帰する井川慶投手の登板も予定されていた。

試合後のミーティング
試合後のミーティング

 その初戦、HBL選抜の試合にブルーサンダーズは10―4で敗れた。発足したばかりのリーグにまさか負けるとは…。

 「普通に勝つやろと思ったのに、負けるのが当たり前になってきてたような感じがあった」。

 その試合後ミーティングのときだ、橋本監督の二度めの“雷”が落ちたのは。といっても、このときも怒鳴ったりしたわけではなく、穏やかに淡々と話した。

 「負けて悔しくない人はもう辞めてくれ。辞めたほうがいいよ。それだけやから。あとは自分たちで考えて」。

 今回は全選手に対しての言葉だ。まさに“雷級”の言葉に選手たちも背筋が伸びたようだ。

北海道で復帰登板した井川慶投手(写真提供:兵庫ブルーサンダーズ)
北海道で復帰登板した井川慶投手(写真提供:兵庫ブルーサンダーズ)

 翌日の美唄との試合は雰囲気もよく、4-10で勝利した。選手たちもオープン戦以来の勝利の味を噛みしめていた。

 「まぁ井川が投げてるっていうのもあったのかも」と振り返った橋本監督だが、選手個々に大いに感じるところがあったようだ。

 ちなみに、1試合限定でブルーサンダーズに復帰した井川投手は1回を無失点。振り逃げがあったため、4奪三振と魅せた。井川投手目当てに大勢集まった野球ファンも、そのピッチングを堪能していた。

■優勝とドラフト指名

初勝利の喜び
初勝利の喜び

 そうした流れがあっての8月11日、ホームに和歌山ファイティングバーズを迎えての一戦で、今季初の引き分けとなった。勝利まであと一歩…いや、半歩まで迫った引き分けだった。

 「もういつでも勝てそうやなっていう流れにきていたと思う。もう勝てるかなって、試合をやりながら雰囲気を見て思った」。

 そうして翌日、ようやく今季初勝利にたどり着いた。勝つべくして勝てた勝利だった。

初勝利の喜び
初勝利の喜び

 その次戦から首位を走る堺シュライクスとの4連戦だ。まずはその初戦、取って取られてのシーソーゲームをモノにした。連敗していたころの姿はもうなく、チーム全員で勝利に向かって粘り強く戦えた。

 「一つにまとまってきたなというのは感じる」。

 宇余曲折ありながらもようやくたどり着いた現在のチーム状態に、橋本監督も目を細める。

 「ベテランがしっかりやってくれて、それを見て若い子もやらなあかんっていうふうになってきた。これまでは年齢的に上の人間と下の人間がちょっとちぐはぐだったのが一体化してきた。控えの選手もしっかり準備ができて試合に入れているので、出たときに自分の仕事を果たしてくれている」。

 現在チーム状態はすこぶるいいと、相好を崩す。 

7月16日に誕生日を迎えた橋本監督へ、選手たちからサプライズプレゼント
7月16日に誕生日を迎えた橋本監督へ、選手たちからサプライズプレゼント

 そしてもう一つ、橋本監督には大事な仕事がある。ひとりでも多くの選手をNPBに送り込むことだ。個々の選手の能力を最大限に引き出し、成長させ、スカウトにアピールする。

 この秋、優勝とドラフト指名の2つの喜びを手にするため、橋本監督は今後も選手を愛情深く見守り、指導していく。

 ときにはまた、“雷級”の愛の鞭を入れることもあるかもしれないが…。

(撮影はすべて筆者)

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