日本の未来を考える
先日、首相官邸で行われた「クリーンエネルギー戦略」に関する有識者懇談会で、岸田文雄首相は「気候変動対策のため脱炭素分野で今後10年に150兆円超の投資を見込み、それを実現するため政府として20兆円の資金投入を想定している」という趣旨の発言をした。政府による気候変動対応としては踏み込んだ発言である。脱炭素は菅義偉政権以来取り組んできた重要な課題だが、岸田内閣においても重要であるということを再確認したものだ。
新型コロナウイルス感染拡大の長期化、ロシアのウクライナ侵攻などで経済の見通しは厳しくなる一方だ。だからこそ政府による踏み込んだ経済刺激策が求められるし、その経済政策でデジタルとグリーンが柱となることは明らかだ。デジタルについては今回触れないが、グリーンへの投資が経済成長につながるかが重要なポイントである。
日本経済はこの20年、低成長に喘(あえ)いできた。こうした事態を解消するためには投資を大幅に拡大する必要がある。脱炭素は再生可能エネルギー、電気自動車関連、水素ネットワークなど、さまざまな面で巨額の投資を必要とするが、それが同時に経済成長に貢献するとなれば一石二鳥ということになる。
ただ、巨額の投資資金をどうファイナンスするのかは気になる。民間投資が基本とはいっても、政府として20兆円の資金投入は小さい額ではない。現時点でこの財源について具体的な議論があるわけではないが、有力な候補として、二酸化炭素を排出する化石燃料や電気などの使用量に応じて税金を課す炭素税の税収が考えられるだろう。
気候変動問題は産業社会の温室効果ガス排出で生じたという意味で、壮大な規模での市場の失敗といえる。200年前の産業革命以来、経済活動は産業発展をもたらすと同時に、温室効果ガスを排出し続けている。世界中の人は気候変動問題の被害者であると同時に、加害者でもある。このような大規模な市場の失敗を環境規制や企業・個人の自主的な活動だけで是正することは不可能だ。そうした努力も必要だが、やはり市場の力を借りて是正するしかない。
重要なのは温室効果ガス排出の社会的コストを、炭素を価格化する「カーボンプライシング」で市場メカニズムに組み込むことだ。市場におけるさまざまな商品やサービスの旧来の価格には温室効果ガス排出の社会的コストが入っていない。だから温室効果ガスを過剰に排出する経済活動が放置されるが、これは排出量に応じたコストを価格化することで是正できる。
気候変動問題が旧来の資本主義が生み出した巨大な歪(ゆが)みならば、それを是正するのが新しい資本主義だ。岸田首相もロンドンでの講演会で「成長志向型のカーボンプライシング」という発言をしたと報じられている。具体的にはいろいろな形態が考えられるが、炭素税はその典型であり、相当規模の税収を生み出す。その税収を投資刺激の20兆円の公的支出の財源に利用するということを検討してほしいものだ。 (いとう もとしげ)
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