[東京 30日] - 2023年の金融市場はどのような展開になるのだろうか。そのカギを握る注目人物は誰か。今年も、市場の動きに大きな影響を与えると思われる「ビッグ3」を選び、来年の相場を展望してみたい。
注目したい人物の第3位は、クリスティーヌ・ラガルド欧州中銀(ECB)総裁である。理由は、金融政策のかじ取りが非常に難しそうであるためだ。11月のユーロ圏消費者物価指数(HICP)の上昇率は前年比10.1%と、10月の10.6%からは鈍化したものの、依然として極めて高水準だった。
問題はユーロ圏の場合、インフレ高進の要因が、米国のような「景気過熱」と異なり、資源価格高騰などの「コストプッシュ・インフレ」であることだ。ECBにとって幸いなことに、世界経済の減速による需要減や暖冬の影響などにより、足元天然ガスや原油、穀物などの資源価格は下落している。11月のHICPが鈍化したのも、これが背景だ。また、これまでのECBの積極的な利上げによって、期待インフレ率(独・10年)が2.2%前後まで低下したことも好材料だ。
しかし、仮にインフレの高止まりが今後も続けば、労働組合の強いユーロ圏では、再び賃上げの声が高まる可能性がある。今年11月には、ドイツ最大の労働組合である金属産業労組(IGメタル)が、金属・電気部門で働く従業員390万人について、23年と24年にそれぞれ、5.2%と3.3%の賃上げをすることで経営側と合意した。同労組は元々8%もの賃上げを要求しており、難色を示す経営側に対し5回のストライキを実施し交渉したという。ただ、原材料費などの高騰で企業側にも余裕がない中での無理な賃上げは、いずれ製品への価格転嫁という形で更なるインフレの種となり得る。また、企業業績を圧迫すれば景気が悪化し、経済がスタグフレーションに追い込まれるリスクもある。賃上げと物価上昇により、せっかく抑え込んだ期待インフレ率が再び上昇し始めるかもしれない。
ラガルドECB総裁は、12月のECB理事会後の記者会見で、「今後も0.5%の利上げを継続していく可能性もある」との考えを示した。将来の利上げの幅などについて滅多にコミットしない同総裁にしては、珍しい発言だ。今後も大幅な利上げを続ける姿勢を見せることで、期待インフレ率を抑えようとしたのではないか。報道によれば、ECB内でも意見の相違があるようで、メンバーの意見の集約にも苦労している様子がうかがえる。
今回のラガルド総裁のアナウンスを受け、ソニーフィナンシャルグループは、来年預金ファシリティ金利が3.25%まで引き上げられると、これまでの2.5%から見通しを上方修正した。足元対ドルでやや回復基調にあるユーロだが、ECBがインフレ抑制に軸足を置く場合、ハイペースの利上げで景気が悪化すれば再びユーロ安に転じる可能性がある。一方、景気を重視し過ぎて早期に利上げを休止すれば、これも対ドルではユーロ安要因となり、いずれにせよユーロは再び下落に転じる公算が大きい。インフレと景気の狭間で難しい判断が迫られるなか、23年にラガルド総裁がどのような金融政策のかじ取りを行うか注目が集まる。
注目したい人物の第2位は、次期日銀総裁だ。23年は黒田東彦総裁の後任人事や、日銀の金融政策に俄然注目が集まると予想する。日銀は、12月20日の金融政策決定会合で、10年国債金利目標につき「0%程度」は据え置く一方、変動幅を従来の「プラスマイナス0.25%程度」から「プラスマイナス0.5%程度」に0.25%ポイント拡大した。政府・日銀が13年に結んだ物価安定2%目標についての「できるだけ早期に実現することを目指す」としたアコードの見直し論が浮上していたタイミングだった。それだけに、この「変動幅拡大」は、金融緩和からの出口に向けた一歩と市場で受け止められている。
今回の政策修正は、イールドカーブのゆがみをある程度是正できたという意味では一定の評価ができるが、「市場参加者(特に海外勢)の期待」に火をつけてしまった面は否めない。元々海外投資家の間では、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ→ECBの利上げ→日銀の利上げ、と主要国の金融政策は連動するとの観測が根強く、23年は日銀のマイナス金利解除が新たなテーマとして注目されそうだ。実際、金利先物(OIS)市場が示す日銀政策金利の見通しをみると、先日の政策修正を受けて、足元は23年3月にマイナス金利解除が織り込まれている。
こうした期待を抑え込むためにも、むしろ23年中は日銀の政策修正・変更等は行われないのではないかと筆者は予想している。一通り欧米の利上げ合戦が落ち着いた24年頃には、再び10年債利回りの変動幅拡大が行われるかもしれないが、そのころには欧米の長期金利も低下しており、日本の10年債利回りが変動許容幅の上限に張り付くリスクは低減されているだろう。
ただ、上述した要因から、23年はしばしば日銀に注目が集まり、出口戦略への期待によって円高圧力が強まる可能性はありそうだ。次期日銀総裁は市場との対話が一層難しくなったように見える。23年は新たな日銀総裁の一挙手一投足から目が離せない年となりそうだ。
第1位は、何と言ってもジェローム・パウエルFRB議長だろう。FRBは12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%の利上げに踏み切った。利上げ幅は市場の予想通りだった一方で、メンバーの政策金利見通しである「ドットチャート」の中央値は、23年が5.125%と、市場の織り込み(5%未満)よりも高水準となった。パウエル議長は会見で、引き続きインフレ抑制を最優先とする姿勢を強調し、現時点で23年中の利下げは想定していないこと、また、ターミナルレートがまだ上方修正される可能性を示唆した。また、CPI鈍化をどう見るかについても記者から質問があったが、「現状のコアCPIはまだ6%であり、インフレ目標の3倍にあたる」「物価が安定するにはまだ長い道のりになることを理解すべき」などと述べた。
このように、FRBがタカ派スタンスを明確にしたにもかかわらず、米長期金利は急低下した。FRBの米経済見通しが下方修正されたことで、市場では米景気後退が織り込まれつつあり、期待インフレ率が大きく低下したことが背景にある。この結果、米実質金利(10年)はFOMC前の1.3%から1.5%付近へと小幅上昇したが、名目金利は今後4.0%を大きく超えるのは難くなったとみている。
ソニーフィナンシャルグループは、FRBが23年5月まで利上げを継続し、5.125%で利上げは打ち止め、その後政策金利は同水準で年末まで維持されると予想している。利上げに伴い米実質金利は緩やかながら上昇し、ある程度ドル高も進むものの、米10年債利回りの上昇余地が限られそうであることに加え、日銀のマイナス金利修正への期待がしばしば台頭する可能性を踏まえ、ドル円の戻りは最大でも140円付近までとみている。
むしろ年後半は米インフレが急速に鈍化する可能性が高いことに加え、米景気後退懸念が強まる中で、ドル安・円高が加速する公算が大きい。従ってドル円の23年末予想値は128円に置いている。パウエル議長にとって、23年はどのタイミングで利上げを停止するか、また、高水準の政策金利をいつまで継続するかなど、難しい判断を迫られる局面が多く、これまで以上に市場との丁寧な対話が求められるだろう。市場参加者はパウエル議長の発言の微妙な変化にまで高い関心を払うと思われる。
22年の筆者のランキングは、3位岸田文雄首相、2位ジョー・バイデン米大統領、1位ジェローム・パウエルFRB議長だった。23年のランキングはこれと異なり、結果的に全員が中央銀行総裁となった。それだけ、来年は今年よりも更に、各国中銀の政策スタンスの「変化」に注目が集まる年となりそうだ。22年はウクライナ危機や、終わらない新型コロナ、地球温暖化による異常気象や災害など、様々な問題に頭を悩まされた年だった。23年が今年よりも良い年となるように、心から願うばかりである。
(編集 橋本浩)
*12月28日までの情報に基づいています。
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルグループの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。
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